マーケティング理論と市場調査

●5つの経営戦略と市場調査

経営戦略とは他社との競争に自社の強みを活かして戦うことです。強みは一般的に「戦場型」、「独自資源型」、「差別型」、「顧客型」の4つの観点に分けられ、各々に対応した市場調査が必要と考えます。加えて戦場型を発展させたミック経済独自の市場創造型を提示します。

1.戦場型と市場規模調査
マイケル・ポーター氏のポジショニング戦略論には、経営戦略とは業界の競争要因を自社の優位なように動かせる位置を戦場(市場)に見つけることとあります。「戦場型」は市場に影響力のあるだけのシェアを獲得することに他なりません。

自社製品・サービスの市場シェアは市場規模調査によって明らかになります。更に、競合先調査によって業界内のポジションと競合状況が明らかになります。敵も知ることができます。

2.独自資源型とリソース調査
「独自資源型」とは同業者が真似のできない、或いは真似をしようとしても非常に時間とコストがかかる組織的能力を持つ経営戦略です。組織的能力とは人材、ノウハウ、設備などです。組織的能力を高めることによって持続的競争優位を達成できます。

人材、設備はリソース調査によって明らかになります。業界経験年数別や各種資格別人数、当該設備の規模・導入機器・性能、更に組織体制などの調査です。

3.差別型とベンチマーク調査
他社と同じような製品やサービスを提供していると価格の安い方に需要が集まります。顧客が他社ではなく自社を選ぶ価値、言い換えれば強みの提示が「差別化型」です。差別化要素は製品の機能性・サイズ・ブランド性、価格、提供方法などですが市場によって観点が異なってきます。

差別化はベンチマーク調査によって明らかになります。当該市場ごとに優先順位を決めた差別化要素別に、競合製品・サービスを比較検証する調査です。

4.顧客型とユーザー調査
「差別化型」で、顧客が他社ではなく自社を選ぶ価値と申し上げましたが、価値を選ぶのは顧客です。何を強みとするのかも顧客が決めます。それは新規顧客でも既存顧客でも同じことです。顧客に寄り添って、顧客の立場に立って考えることが「顧客型」で、マーケティングの典型的戦略です。

ユーザーの製品・サービスに対する価値判断はユーザー満足度・評価調査によって明らかになります。今後の購買動向も調査できます。但し、新製品・新サービスのコンセプトが明確になっていないと正確なユーザー調査はできません。

5.市場創造型と新市場可能性調査
「市場創造型」とは戦場型を発展させて、既にある市場について自社製品の強みを活かせるような市場に意識的に括り直すことです。マーケティング論でいうSegmentationと異なり、必ずしも細分化するだけではなく、統合化することもあります。

新市場可能性調査は、自社の製品・サービスの強みとユーザーニーズを突き合わせて既存市場を括り直し、或いは統合化し、仮説市場の可能性を探る調査です。

● R-STP &4Pと市場調査

マーケティングとは顧客が真に求める製品やサービスを提供し、顧客がその製品やサービスを手軽に得られるようにする企業活動のことです。具体的には「誰に」、「何を」、「いくらで」、「どこで」、「どのようにして」提供するかという活動プロセスになります。「誰に」が前半部分で、「R-STP」に展開できます。後半部分は、何を=商品(Product)、いくらで=価格(Price)、どこで=流通・売場(Place)、どのようにして=広告・販促(Promotion)の4プロセスです。後半部分は各々の頭文字をとって4P(フォーピー)と称します。

【R-STP】

1.「R-STP」のRはResearch
Research(市場調査・分析)について、マーケティングの神様といわれたフィリップ・コトラー教授は「コトラーの戦略的マーケティング」の中で右のように市場調査・分析の重要性を訴えています。「調査はマーケティングの出発点である。調査をせずに市場参入を試みるのは、目が見えないのに市場に参入しようとするものだ」。市場調査・分析はマクロではPEST分析(※)、ミクロでは3C分析(※)が取り組み易いフレームワークとなります。
更に市場調査はマーケティングの出発点から始まって、後で見るように4Pを効果あらしめるためにその都度必要な手法です。※PEST分析とは企業を取り巻く外部環境を、P=Politics(政治・法律など)、E=Economy(景気動向など)、S=Society(ライフスタイルなど)、T=Technology(技術革新など)の4つの観点から分析を行う手法。 ※3C分析とは顧客(Customer)、競合先(Competitor)、自社(Company)についてSWOT分析などを活用して自社や競合先の強み・弱みを分析する。また、顧客分析を通して市場ニーズを把握する手法。
2.「R-STP」のSはSegmentationで、TはTargeting。両プロセスは相即不離
Segmentationとは一つの市場をニーズ(属性)に基づいて細分化していくことです。顧客を分けることと同義で、分けられた顧客がターゲットになります。自社製品・サービスがターゲットのニーズと合致するかどうかの見極めがTargetingです。 ユーザーが法人の場合は業種、企業規模、事業ドメイン、販売地域、或いは「関連製品」の導入有無を条件として細分化していきます。ユーザーがコンシューマの場合は性別や年齢・年代、家族構成、居住地域、昼夜の行動様式、更にそれらのマトリックスなど法人以上に細分化します。コンシューマは個人・家庭であり、組織である法人と比べてニーズが多岐に渡るからです。
3.「R-STP」のPはPositioning
Positioningとは、ターゲットとする市場で競合他社の戦略を分析し、競合他社が存在していない、或いは存在していても自社の経営資源が十分に活かせるポジションを発見し、独自性や差別性を発揮して競争を優位に展開していく手法です。 Positioningを行うには、まずターゲットとするセグメントで、どの企業が、どのような戦略でビジネスを展開しているのかを把握します。そして、同じ市場でビジネスを展開する企業の違いを明確化する要素を2つ設定し、それらを縦軸と横軸に割り当てたポジショニングマップという図を描いていく手法を取ります。

【4P(Product/ Price/ Place/Promotion)】

1.「R-STP」のRはResearch
顧客に提供する「製品・サービス」(以下、製品)を検討し、開発するプロセス。 「自社の売りたい製品」ではなく、「ターゲットとする顧客が買いたい製品」を見極めることです。 更に独自資源を活かした優位なポジションを定め、製品を開発することが重要です。 製品は必ずしも自社ブランドだけでなく、付加価値を高めるために他社製品と組合せて、或いはOEM製品として提供する方途もあります。 顧客ニーズはユーザー調査やベンダ調査で捉えることができますが、製品像をより具体化に明示して調査しないと曖昧な回答結果となり顧客の真のニーズを掴むことができません。 顧客需要動向についてはベンダの当該製品の売上動向調査によって明らかにできます。
2.Price(価格)と実勢価格調査
製品・サービスの価格は、企業の売上と利益に結びつくため会社トップ或いは事業部門トップの判断となります。 価格の決め方は製品・サービスにかかる人件費、材料費などのコストを積上げるプロダクトアウト方式と、市場や競合先の価格及び顧客の立場を優先したマーケットイン方式があります。 当社の調査資料の事例ですが、18年前に、個別企業実態の深耕と分析内容の拡充を実現し、更に資料体裁を製本形式からバインダー・ファイルと全く異なる形式に変更するなどして、価格を、190,000円(税抜)に値上げしました。 顧客からは一定の評価があり、売上は返ってアップしました。以降、価格は現在まで同じです。 これもマーケットイン方式と考えます。コンシューマ向け製品・サービスはほぼ価格が一律でオープンになっていますが、法人向け製品・サービスにおいては価格が、リストプライスと実勢価格の二重構造になっているケースが多々あります。 リストプライスは比較的オープンになっていることが多いですが、実勢価格は取引量などによって体系だった値引き率が存在します。これは市場調査をしないと明らかにできません。
3.Place(流通・売場)とチャネル調査
流通・売場はどこを通して売るかということです。顧客ニーズに合った手頃な価格の製品・サービスであっても、流通・売場がなければ顧客の手に入りません。 法人向け製品・サービスは直販と代理店(パートナー)が主なチャネルとなります。直販にはネット販売を含めた通販や訪問販売があります。コンシューマ向け製品・サービスは直販と小売が主なチャネルとなります。同直販にはネット販売を含めた通販や訪問販売、それに直営ショップがあります。小売にはスーパー、コンビニ、百貨店、各種形態の専門店と非常に幅広いチャネルがあります。 最近の動きとしてはリアル店舗とネット販売を融合したオムニチャネルが登場しています。製品・サービスと当該業界に精通していることと、ターゲットとなる顧客層を抱えていることが流通・売場の決定ポイントです。コンシューマ向けはチャネルミックスも効果的です。新規チャネル開拓は成熟市場でも有効な拡販策で、市場調査によって新規チャネルを探索できます。チャネル(流通)における仕切り体系調査やチャネル支援調査は常にニーズがあります。
4.Promotion(プロモーション)と広告・販促効果調査
自社の製品・サービスをどのように知ってもらうかがプロモーション戦略です。多くの人に知ってもらいたい場合にはテレビや新聞、雑誌、インターネット広告などを活用します。特定の人に知ってもらいたい場合にはコールセンターからの電話セールス、更に訪問販売が有効です。顧客の掘り起こしにはダイレクトメールやチラシが効果的です。それぞれのプロモーションには長所短所がありますので、その違いを把握して適切な広告や販売促進をしていきます。より効果を得るためにも、目的に合わせ各種プロモーションを使いわける方法もあります。広告効果測定調査は当社では実施していません。 販促効果調査についてはベンダのパートナー支援策の満足度・評価調査を通して効果を点数化していく手法があります。ベンダ提供の製品・サービスの評価調査とセットで実施されることがほとんどです。

以上、何を(Product)、いくらで(Price)、どこで(Place)、どのように(Promotion)展開していくかという4P戦略は単体で機能するものではなく組合せによって効果を発揮します。

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